2009年12月15日火曜日

映画研究家 倉田剛氏の大阪上映レポート



『へんりっく寺山修司の弟』第七藝術劇場初日

1212日小津安二郎の命日に大阪の第七藝術劇場で『へんりっく寺山修司の弟』が初日を迎えた。

2045分という遅いスタートで、その後、森崎偏陸さんと大阪造形センターの渡辺昭二さんの対談があった。

私はほんの少し前にこの映画の制作者である岡田博ワイズ出版社長から司会してよと言われ、成り行きでこのトークの司会をすることとなった。「へんりっくブリキの太鼓」という本は読んでいて、これはまるで玉手箱のようにうれしい本で、あの『ローラ』から偏陸さんのデザインワークまであって楽しめた。

当日は映画をナナゲイで見て、そのまま舞台へ上がり、その時が森崎偏陸さんと初対面という、ぶっつけ本番以上のええかげんさであって、どうなることやらと思ったが、数日前に旧知の渡辺さんに会いに造形センターに行った時も思い出話だけして、まあ何とかなるやろうというノリであった。

石川淳志監督の『へんりっく』は面白かった。寺山という巨人の秘密に迫ると思うと肩すかしを食う。偏陸の個人史でもない。時空の計算をしないで、中心にいる偏陸さんと多くの多彩な人々が交差する。『ローラ』を何度も繰り遍すことで、一つの解釈ではないことを示すように全体も重層的なのだ。

さて、肝心のトークである。中身は「テラヤマ」であり、あの時代への回帰であり、表現論であり、15分くらいの予定は結局45分くらいになってしまった。渡辺さんは芸術領城が多岐にわたる人だから寺山より宇野亜喜良とか羽良多平吉とかデザイナーとの交流に話が進んだ。私は「あの時代」市川準、小坂修平といった人といた映画学校が渋谷にあって、坂を下りたところが天井桟敷館だった。サテンに居たあの人は寺山はつ。寺山の母であった。

しかし、この映画も森崎偏陸さんも過去形ではない。映画は『ローラ』のスクリーンを作る電動ドライバーの音で始まり終わる。いつまでも映画館の座席に座っていても何も始まらないという寺山の声も聞こえてきそうだ。

大阪ではちょうど精華小劇揚で『現代演劇ポスター展』を開催中であった。笹目浩之さんのコレクションだが、笹目さんも当目ナナゲイにいらっしゃったようだ。あと偏陸さんと飲んだが、「家出」もまず加賀まりこありきで、次が宇野さんだとか、市川が大好きとか、ほんとに楽しかった。『へんりっく寺山修司の弟』今週金曜までです

倉田剛